笹の葉さらさら

 
今年はなかなか梅雨前線が動かないのだそうで。
いつまでも北上しないままな前線は、
九州や西日本に只者じゃあない威力の集中豪雨をもたらし続け、
半端じゃあない被害を出してもいるとか。

 「まあ、から梅雨になられても困るっちゃあ困るんだけどもサ。」

青々とした笹の枝は結構な大きさと枝振りであり、
それへと向かい合う たまきさんは、
セナと比べればさして小柄ということもないはずだのに、
それでも高い枝へとこよりを結ぶのへは、
なかなかに難儀をしている模様。
えいと背伸びをし、息を詰めるようにして一気に結び終えたこよりには、
黄色い色紙を長四角に切った“短冊”が下がっており、
幼い字で何やら微笑ましい願いごとが綴られてあるのが可愛らしい。

 『大きな笹ですねぇ。』

商店街とかパチンコ屋さんで、
宣伝効果のあるだろ装飾として立っているものでなら、
このくらい大きいのも見るけれど。
ここは一応は個人のお宅の敷地の中庭。
まま、それを言うなら、
母屋だけを見ても大きなお屋敷なその上に、
同じ敷地の中にはいかにも厳かな作りの
道場もあるようなお宅じゃああったので。
それとのバランスを考えたなら、

 “このくらいの大きさは、むしろ丁度いいのかも?”

そんな感慨を胸中に転がしながら、
やはり色紙を細長く切ったの
赤から紫を経て青や藍色にというグラディエーションを考えつつ
鎖の輪っかにして繋いでいたセナへ、

 「わあ、セナくんたらお仕事が細かいvv」

短冊を下げる作業にかかりきりだったたまきが、
いよいよ脚立がいるかしらと、振り返った先の濡れ縁で、
そりゃあきれいな紙の鎖が何本も出来つつあるのへ、
ついのことだろ、感嘆の声を上げた。

 「凄いわねぇ、
  そうよ、こうやってグラディエーションがついてると
  見た目にも鮮やかで綺麗なのよねぇ。」

小さい子供がデタラメに繋いじゃうのも、
味があって可愛いけれど、と。
手元に置いてた小さい段ボール箱から、
短冊を書いた子供らが作ったのだろ、短い目の鎖を手に苦笑する。
こちらの道場では、
放課後の何日か、曜日別にご町内の子供らが通っている関係から、
子供会関係の行事もこなしておいでで。
なので、来る七月七日の“七夕”を前に、
みんなが書いた短冊を、
大きな大きな笹へ飾って天の神様に見てもらう…という、
こちらならではの行事が今年も催されるのだそうで。

 「清ちゃんに任せるともっと壮絶なのよ?
  いつだって色紙をあんまり細く切らずに作り始めるから、
  イモムシみたいな丸々したのが出来あがっちゃって。」

パーティー会場なんぞには付き物だとはいえ、
そうそうしょっちゅう手掛けるものでなし。
思うより細くて長い紙でないと、ゆらゆら揺れる鎖状にならないというのは、
実際にやってみないとなかなか思い出せないもので。
身内のやらかしたことだからと、
そりゃあ豪快に“あはは”なんて笑い飛ばしたお姉様と違い、

 「あやや…。///////」

清ちゃんというのは、セナもよく知る進清十郎さんのことで。
だとすれば、どんなに威容のある精悍な青年かもよくよく知っているだけに、
同じように笑い飛ばすワケにはいかない。
大人びた風貌をし、誠実で生真面目で、
普段の言動も至って冷静なお人だが。
いかんせん、アメフトや武道へと関心が偏っている傾向が強かったため、
いわゆる普通一般のあれやこれや、
意外なことを知らなかったりするところがあるのが玉に瑕。
心根は優しい人だし、ものの善悪もちゃんとちゃんと判っている人なのだが、
今時の流行ものを全く知らないことから、
話題が理解出来ずに場の空気を凍らせたなんてのは序の口で。
曖昧に流そうとしても、そのまま真顔で説明を求められるので、
どうにも付き合いにくいと敬遠されてしまい、
気がつけば…顔見知りからほど遠巻きにされており。
それでしょげるような人ではないところが、

 “……凄いなぁvv”

こらこら、セナくんセナくん。
(苦笑)
話が随分と逸れてしまったが、
決して不器用なお人じゃあないのに、
真摯が過ぎて手加減を知らないからだろか。
今ドキのコンパクトな精密機器は頼りなさすぎて必ず壊すし、
山野でのトレーニングでは、
道なきところへ道を作ってしまうような人。
テクノロジーと自然と、
どっちへもクラッシャーな困った奴だったんだよとは、
チームメイトの桜庭さんの名言で。

  ―― でもね? あのね?

知らないことが一杯な進さんは、
でも、知らないことへ知ったかぶりなんかしないまま、
それは素直に“教えておくれ”というお顔をするんだよ?
知らないってこと、そうそう引け目に思うことも無いんだなぁって、
そんな風に思えてしまうほど、堂々としてるんだよね。

  ―― それからね?

こうこう、こうなんですよって話し終えたら、
小早川は凄いなぁって、
色々なことを知っているのだなぁって、
褒めてくれるのが何だか嬉しいのvv

 「〜〜〜〜〜〜。//////////」
 「セナくん?」

色紙を細い三角へと何度も折ってから、
横向きに何本も切り込みを入れて。
折り目を開きつつ、
ちょうちんみたいに延ばして飾る、投網という細工物
…を作っていたはずが。
何だか妙なところに切れ目を入れたらしくって、
網状にはならずの花柄コースターみたいなのが出来たのへ。

 「あわわ。///////」

真っ赤になって すいませんと謝るところが、

 “判りやすいったらvv”

何を考えてたかくらいの察しはつくので、
そこがまた可愛らしいと笑ったたまきさんであり。

 「関東大会だったっけ?
  春大会が終わったばかりだってのに、練習バカな弟でごめんね。」

そう。
何でまた、同じご町内でもないセナが、
直接のお友達にあたる清十郎さん不在なまま、
こちら様のお庭でこんなお手伝いを手掛けているのかといえば、

 「期末試験が終わったら、
  終業式までは合宿も始まらないのでって、
  お誘いしたのは清ちゃんの方だってのにね。」

セナの側の期末考査の日程も似たようなものだったで、
それじゃあウチへ来ませんかと。
大きな笹かざりが今年も立ってますよという
お誘いをいただいたのだけれど。

 『ごめん、セナくん。
  清ちゃん、今、道場で試合中なの。』

何でも、合気道の方での有名人であるおじいさまの知り合い、
なんとアメリカで活躍しているという遠来のお客様があり。
どうしても清十郎くんと手合わせしたいと頼まれたのだとか。

 「融通が利かないというか、生真面目が過ぎるというか。」
 「あ、でもでも。」

セナくんをお待たせして、あの子はもうと、
怒った口調になったたまきさんへ、

 「融通の方は…あの、利かせられてる方じゃないかって思います。」

ついつい慌てたように口を挟んでしまったセナであり、

 「先に約束していたのだからと、
  以前の進さんだったらそれこそボクの方を優先したかもですよ?」
 「…………………あら。」

そういや そうかも、と。
意外な着眼にお眸々を丸くした たまきさん、
ね?っと嬉しそうに微笑っているセナくんへ、

 「…そっか。
  あいつめ、セナくんをもはや家族同然と見なしているのかvv」
 「え?」

うふふんと、印象的な目元を細め、
それは楽しそうに笑った美人のお姉様へ。
え?え?と、翻弄されてしまってる韋駄天ランニングバッカーさん。

 『だって、後回しって扱いされてるのに、
  それもまた嬉しいってお顔になって、言うんだものvv』

清ちゃんの成長を差してのことだとしても、
それをああも誇らしげに口にするなんてねと。
何とも かあいらしかったセナくんの様子を何度も話しては、
それを見逃した当のご本人様を、
何とも言えぬ複雑なお顔にさせたあたりが、
やっぱり只者じゃあないお姉様だったりして。

 『アタシからすりゃあ、
  融通の利かないばっかな天帝様にしか見えなかった清ちゃんを、
  実は 誠実でちょっちオボコかっただけな牽牛さんなんですよって、
  見直させてくれたんですものね。』

やっぱり清ちゃんのお嫁さんに来てもらわなくっちゃねぇと、
今からほくほく、企んでおいでのお姉様。
ど、どうかお手柔らかに願いますね?
(苦笑)


  〜Fine〜 10.07.05.


  *なんだか波乱が大きにありそな七夕ですね。
   せめて晴れの晩になりますように…。
   ついでに進さんもうすぐBDですね、おめでとう。
(ついでって・大笑)

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